医者をやっておりますと、患者さんご本人やご家族から「先生のお陰で…」などの言葉を頂く機会がしばしばあります。
もちろん、この様な言葉を頂けることや、そう言って頂けるような仕事が出来ていること自体は大変に嬉しく思います。
でもそういう時、私が必ずお話しするのが、「あなた方自身のお陰なんですよ」ということです。
・実際に頑張るのは「本人と支援者」
リハビリ理論や受け取る力についての記事を読んで頂いた方は、もうお分かりかも知れませんね。
私たちは、診察室に来て頂いた方が少しでも元気になるよう、お話を伺ったり、あるいはお話をさせて頂いたり、お薬を処方したり、時に入院をお勧めしたりする場合もあります。
一部特殊な強制措置もありますが、基本的に実践するのは全てご本人、そしてご家族を中心とした支援者なのです。
そもそも病院へ「行く」のも。
医者に、自分の苦しい状況を「話す」のも。
医者の長話を「受け取る」のも。
出された薬を「飲む」のも。
全て、「医者の力」ではありません。
リハビリ理論で言えば、あちこち見廻りながら定期的にリハビリの方法を指導し、応援するのが医者。
痛い思いをしながら、実際に歩くのがご本人。
そのご本人を、常にそばで支え続けるのがご家族他支援者。
こういう構図ですから、如何にご本人と支援者の力の方が重要かお解り頂けるでしょう。
・自分に誇りを。支えてくれる方々に感謝を。
もちろん、社交辞令として「先生のお陰」という言葉を使われる場合もあるでしょうが、本当に心の底からその様に思っていると感じられる方もいらっしゃいます。
嬉しいことではありますが、「医者のお陰=医者の力で良くなった」と考えてしまうと、「自分の力、支援者の力」に対する評価が十分ではなくなってしまいます。
前段でもお話しした様に、医者が出来るのは基本的に応援や指導。
実践するのは自分であり、ご家族その他の支援者。
ですから、もし今自分が元気で良かったと感じるなら、それは「自分と支援者が努力で勝ち獲ったもの」なのです。
それだけのものを勝ち獲った自分を誇るべきだと思いますし、それを近くで支え続けてくれる方々にこそ感謝して頂きたい…
そう思うのです。
そしてこれは、何も医者と患者さんの関係においてだけの話ではありません。
あなたがもし、「あの時、あの人との出会いで人生が救われた」と思う様な経験をされていたなら、「その出会いを、自分の人生を救う力に出来た『自分の力』」に誇りを持って下さい。
他者への感謝の気持ちはもちろん、とても大切です。
でも、「『自分の力』を認めてあげる」ことはもっと大切なのです。
何しろ、人生の主人公ですからね。